日本の伝統文化「入浴」

日本の伝統文化である「入浴」は、身体に良いものとされ、古くから親しまれてきました。諸説あるものの、奈良時代に伝来した仏教経典の一つ『温室経』(正式名称は『仏説温室洗浴衆僧経』)によると、「七つの物を用いると、七病を除き、七福が得られる」とも言われ、綺麗な湯水や石鹸、浴衣などの道具を用いながら入浴することは、身体に良い養生のひとつとされてきました。8世紀には薬草などを入れた湯を沸かして、その蒸気を浴堂と呼ばれる沐浴のための施設に取り込み、蒸し風呂も行われていました。このように入浴文化やその方法には歴史的変遷もありますが、入浴は良いものと昔から言われてきたのです。

入浴の大切さについて
上田ゆき子先生がレクチャー

今回、「女子漢方」の著者で、漢方医として多方面で活躍されている上田ゆき子先生に、入浴の大切さについて解説いただきました。

良質な睡眠を得て、
疲れを翌日に持ち越さないために

忙しい日が続くとお風呂に入ることをおろそかにしがちですが、入浴は体を温めて良質な睡眠を得るためにとても大切なことです。湯船に浸かり体を温めることで全身の血行が促進されます。すると、副交感神経が刺激されて、心や体の緊張がほぐれてリラックスした状態になります。湯気の蒸気で目も温まり、深い睡眠を得ることができるのです。良い睡眠が得られなければ、疲れを翌日に持ち越してしまいます。慢性的に疲れている状態にならないために入浴はとても大切なのです。

足は第二の心臓。足先まで温めて
血行不良を解消するために

本当に忙しい時は、足湯だけでも十分な効果があります。体が重い、あるいは足がだるいと感じている方は、下半身の血行不良が原因です。足を温めながら、足の指先をお湯の中で解放してあげれば、こうした症状も改善されます。本来、足は第二の心臓と言われるくらい、さまざまな臓器と関係していて、繊細で敏感なのです。足が縮こまっていると、足と脳の回路が繋がらなくなってしまいます。足湯の中で一本一本、指を動かしてあげて、脳から一番遠い足の指先までちゃんと自分の神経が行き届くように意識してみましょう。

発汗して、老廃物もストレスも
発散されるために

入浴には、発汗作用もあります。汗をかくと体に溜まった老廃物が汗として排出されるだけでなく、ストレス的なものも含め、発散されます。入浴することですっきりとした爽快感が得られるのは、物質的にも精神的にもいらないものが体の外に出ていくからではないでしょうか。お湯の適温は人ぞれぞれです。気持ち良さを感じることがいわゆる養生ですから、その良い塩梅を自分で見つけていくことも大切です。入浴の際に、こうしたことを考えることで、自分自身の体や体調と向き合うよいきっかけにしていきましょう。

入浴の大切さをご理解いただけましたでしょうか。オンとオフをうまく切り替えることが難しい現代ではありますが、忙しい時でもできるだけ入浴するようにして、ストレスや疲れを溜めないことをぜひ心がけてください。

上田ゆき子先生 プロフィール: 平成9 年旭川医大卒。同大学病院にて内科、麻酔科研修の後、北里研究所東洋医学総合研究所で2 年間漢方研修に従事。現在、悠翔会くらしケアクリニック練馬にて、在宅診療、漢方外来を担当。日本東洋医学会専門医、日本プライマリケア連合学会認定指導医。著書「薬食同源漢方医がすすめる食材力レシピ」( 洋泉社)、「女子漢方」( 法研) 他

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